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内容紹介

 日本人が初めて出会った西洋科学とは一体どのようなものだったのか?



 明治政府が西洋学術の全面的な移植に着手してからおよそ150年、現在では「科学技術創造立国」を標榜するこの国においても、上の問いかけに真摯に答えようとする研究は、実のところ驚くほど少ない。

 本書は、日本人が初めて出会った西洋科学の代表格と言える、キリシタン時代(1549-1650)の西洋宇宙論をとりあげ、そのラテン語原典から、江戸時代における流布と受容の実態までを、日欧の豊富な一次史料に基づいて初めて甦らせようとする試みである。

 

 現代では<科学>に分類されるそれらの知識は、同時代のヨーロッパでは、なおキリスト教神学と切り離せない関係にあった。その日本への導入の担い手であったイエズス会の宣教師たちも、唯一絶対の創造・主宰神である「デウス」の存在や、「パライソ」の所在を、とくにキリシタンの初入者に対して確実に証明するために、それらを利用したのであった。

 またこうした知識は、江戸幕府の禁教政策によってキリスト教とともに隠滅され、歴史の闇に葬られたかのようにこれまで信じられてきたが、全国の博物館・図書館における悉皆調査の結果、意外なほど広く流布していたという事実が確認された。南蛮・漢学・蘭学の領域にまたがるその複雑な受容プロセスは、江戸時代人にとっての<科学>とは一体何だったのか、という問いを誘発すると同時に、現代を生きる我々にも、同じ問いを投げかけている。

章立て

はじめに 問題の所在と研究の射程

第1章 イエズス会の日本布教と宇宙論
  1.好奇と理性
  2.デウスの存在証明 ―デザイン論―
  3.パライソの場所 ―エンピレウム天―
  4.小結

 

第2章 ゴメス『天球論』の原典的研究
  1.『天球論』の背景
  2.西洋側原典
  3.日本で使用するための配慮
  4.小結

 

第3章 ゴメス『神学要綱』の天文学的数値とクラヴィウス
  1.『神学要綱』中の天文学的数値
  2.数値の欧文原典
  3.忠庵系宇宙論書との比較
  4.小結

 

第4章『二儀略説』の流布と受容
  1.写本の流布と受容
  2.『天文方書留』に見る蘭学系知識との混在
  3.『天文方書留』の成立過程と著者像
  4.小結

 

第5章 『乾坤弁説』の流布と受容
  1.「乾坤弁説」と題する写本
  2.「天文沙汰弁解」と題する写本
  3.「四大全書」と題する写本
  4.「弁説南蛮運気書」と題する写本
  5.未調査・現所在不明の写本
  6.小結

 

第6章 『南蛮運気論』の流布と受容
  1.写本の流布と受容
  2.現存写本の書写系統
  3.小結

 

第7章 結論

付 録
  A ティテルマンス『自然哲学要綱』第6・7書の章題と見出し語一覧
  B ゴメス『神学要綱』第1部第2論考第21章羅和対訳校訂本
  C 『天文方書留』翻刻テクスト
  D 大河内本『南蛮運気論』翻刻テクスト

 

文献一覧
 

あとがき

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